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書評『ブルー・オーシャン・シフト』

『ブルー・オーシャン・シフト』を読んだ。これは前作『ブルー・オーシャン戦略』の理論をさらに具体化し、実務での応用にフォーカスした書籍である。

著者は前作と同じくW・チャン・キムとレネ・モボルニュ
翻訳者も前作同様、有賀 裕子

ダイヤモンド社から2018/4/19に発売。出版社が変わっている。

前作の理論的な提案に対して、今回はその実行プロセスに深く踏み込んでいる点が特徴だ。経営者として感じたのは、前作よりも現実的で具体的なステップが提示されているため、実務に落とし込みやすいということだ。

※前作『ブルー・オーシャン戦略』の書評もあります

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「シフトプロセス」なるものがすごい

特に、5段階のシフトプロセスは評価に値する。これは、単に理論を唱えるだけでなく、どうやって競争の激しい市場から抜け出し、未開拓の市場に移行するかという具体的な道筋を示している。従業員の協力を得ながらこのシフトを進めるという点は、経営者としての実践に直結する。人材の巻き込み方や、組織全体をどのように新しい戦略にシフトさせるかといった内容は、特に経営者視点で非常に実用的である。

ただしやはり実用性が高い訳ではない

一方で、この本は前作同様、「競争を避ける」という理想主義的なコンセプトに依存している。しかし、実際のビジネス現場では、競争から完全に逃れることは不可能である。シフトする過程で競合が同様に動く可能性を無視しているか、もしくは軽視している点が気になる。また、新しい市場を見つけたとしても、それを維持するための競争力強化や持続可能性に関する議論は浅い。競争を回避することよりも、競争に打ち勝つための新たな戦略の構築が実務的にはより重要だと感じる。

感情的な要素への配慮

さらに、感情的な要素への配慮が強調されている点は良いが、これは組織文化やリーダーシップに依存する部分が大きい。どの企業でも適用可能とは限らず、特に硬直化した大企業やトップダウン型の組織では、このアプローチが機能しないリスクがある。新しい市場へのシフトには、戦略だけでなく、文化的な変革が必要だが、その実行可能性についての具体的な指針は不足している。

『ブルー・オーシャン・シフト』での「感情的な要素への配慮」は、経営者にとって重要な組織変革の要素だ。新しい市場を開拓する際、従業員やチームが変化に対して抵抗感や不安を抱くことが多い。そこで、単に戦略を押し付けるのではなく、感情的な側面を考慮し、従業員の自信を高め、彼らが変革プロセスに積極的に関わるような環境を作ることが重要だ。このアプローチは、従業員のモチベーションを維持し、組織全体の変革をスムーズに進める助けとなる

使えるなと思ったのは…

とはいえ、この本にはビジネスの現場で活かせる多くのポイントがある。特に、市場分析顧客ニーズの再定義に関する章は、実務で役立つ。既存の顧客や市場に対して新たな視点を持ち込むことができ、例えば商社や広告業界での新規事業開発に活用できるだろう。また、競争の激しい市場での事業再構築を考えている企業にとっては、非常に参考になるフレームワークだ。

市場分析で非顧客に焦点を当てよ

『ブルー・オーシャン・シフト』の市場分析の章では、既存の市場状況を理解し、競合他社との戦いに消耗しないためのアプローチが解説されている。経営者向けに特に有用なのは、「市場の再定義」に関する部分で、従来の業界視点に囚われるのではなく、顧客の隠れたニーズや非顧客の需要を掘り起こす方法が示されている。このアプローチは、従来の分析手法では見落とされがちな機会を見つけ出し、競争優位を築くために有効だ。市場の枠を超えて広い視点で需要を探ることで、新たな成長機会を発見できる

顧客ニーズの再定義

ここで言う顧客ニーズの再定義とは、単に現行の顧客要求を満たすのではなく、顧客の潜在的な欲求や未解決の問題を発見し、新たな価値を提供することを意味する。『ブルー・オーシャン・シフト』では、従来の競争に囚われず、非顧客(現在の市場に含まれていない層)に目を向けることを強調している。既存市場に固執せず、新しい市場機会を発見することができる。経営者にとって、顧客の「痛み」を深く理解し、それを解消する革新的な製品やサービスを提供することが、長期的な競争優位の鍵となる​。

まとめ

『ブルー・オーシャン・シフト』は、前作よりも実務的な要素が強化されており、経営者として具体的な戦略転換の手助けになる可能性がある。しかし、理論的な弱点や競争を軽視する姿勢には引き続き批判的な視点を持つべきだ。適用には慎重な判断が必要であり、全ての企業に万能ではないが、状況に応じた部分的な応用は十分に価値があるだろう。