スポンサーリンク

書評『ブルー・オーシャン戦略』

『ブルー・オーシャン戦略』を読んだ。マーケットの競争から抜け出し、未開拓の市場を開拓することで成功を収めるというアイデアを提唱している。

著者はW・チャン・キムはレネ・モボルニュ
翻訳者は有賀 裕子

ランダムハウス講談社から2005/6/21に出版。発売当時は、経営者が薄々感じていたブルーオーシャン的な市場を明確に言語化した事で大きな話題となった。

この本で提案されている具体的な戦略は、主に以下の4つのステップで構成されている。

※次回作『ブルー・オーシャン・シフト』の書評もあります

スポンサーリンク

ブルーオーシャン戦略の4つの柱

1. エリミネート(Eliminate)

これは業界の常識を疑い、不要な要素を排除することでコスト削減と顧客価値の向上を目指すと言うもの。

例えば、商社が従来の中間業者や配送業者を削減し、ダイレクトに取引先と交渉することを考えた場合、コストは削減されるかもしれないが、業界のバリューチェーンや取引慣行の崩壊を引き起こすリスクがある。従来の信頼関係や専門的なノウハウを無視することは、新たな取引コストやリスクを生む可能性があり、結果的にコスト削減に失敗するケースも多い。

2. リデュース(Reduce)

業界標準よりも過剰に提供されている価値や機能を減らし、コストを抑えながら本質的な価値に集中すること。

例えば戦略コンサルティングファームが提供するレポートや提案資料のボリュームを削減し、エグゼクティブサマリーのみに絞るといったケース。しかし、クライアントによっては詳細な分析やバックデータを求めることがあり、過剰に削減することで信頼を失い、逆に新たな付加サービスの要求を引き出してしまうことがある。削減が必ずしも効率化に繋がるとは限らず、顧客ニーズとのズレが発生する。

3. レイズ(Raise)

業界で十分に提供されていないが、顧客にとって重要な要素を高めることで差別化を図ること。

例えば広告代理店がクリエイティブの質を劇的に向上させ、ブランドのエクスペリエンスを高めることに注力する。しかし、クリエイティブに過度に投資した結果、ROI(投資対効果)が低下し、費用対効果が悪化する可能性がある。クライアントはクリエイティブの質を評価する一方で、広告の実際の効果(売上や認知度の向上)を求めているため、質を高めるだけではビジネスとしての成果が伴わないことも多い。

4. クリエイト(Create)

これは業界に存在しない新しい価値や機能を創出し、新たな需要を喚起することを指している。

例としては、新たなサービスモデルを作り上げるなどが挙げられる。例えば戦略コンサルティング会社がオンラインコンサルティングを開始するという施策。しかし、業界にない新しい価値を提供する際、初期投資や市場教育に多大なコストがかかる。また、消費者や企業がその新しい価値をすぐに受け入れるとは限らず、十分な浸透や理解が進まないままリソースを消耗するリスクがある。

『ブルー・オーシャン戦略』を読んで見えた課題

さて。これらのさわりは表面的には魅力的に思えるが、実際に現場で働くビジネスパーソンとしては、いくつかの課題や疑問が浮かび上がる。

まず、この戦略が具体的な実行手段に欠けている点だ。

理論としては、既存の市場で競争を避け、新たな「ブルー・オーシャン」を見つけることが推奨されている。しかし、その具体的な実践法や、実際に市場をどう見つけ出し、開拓するのかについての説明は曖昧模糊だと感じる。実務に携わる者としては、革新的なアイデアを出すことが重要なのは分かるが、それを実行に移すための現実的なステップが提示されていないのでは、結局は絵に描いた餅に終わる可能性が高い。

成功事例が後付けっぽい

さらに、著者が挙げる成功事例も、後付けで「ブルー・オーシャン戦略」を適用したように見えるケースが多い。

戦略コンサルタントや広告代理店での経験から見ても、このような「成功事例」を模倣するだけでは、多くの企業が置かれている厳しい競争環境において実際に勝ち残るのは難しい。

加えて、競争を避けるという考え方自体が、あまり現実的ではない。どんな新市場を開拓しても、成功すれば必ず他者が参入し、結果的に「レッド・オーシャン」と化す。商社や広告業界での経験から言えば、競争を完全に回避することは不可能であり、むしろ競争優位性をどう維持し、発展させるかが重要だ。この点で『ブルー・オーシャン戦略』は理想主義的に過ぎ、実務的には乏しいと感じる。

実用性があるのか?

実用性の観点から言えば、この本を読んで即座に業務に活かせる部分は少ない。特に、日常的に競争の激しい市場で働くビジネスパーソンにとっては、具体的な競争戦略の方が有用だろう。ただし、クリエイティブな発想や、既存の枠組みに囚われない視点を持つことの重要性は、改めて考えさせられる部分もある。新しいビジネスモデルやサービスを検討している際に、ヒントとして活用する余地はあるかもしれないが、日常業務の改善や成果には直結しづらいだろう。

結論として、『ブルー・オーシャン戦略』は、斬新なアイデアを提供しているが、実務に落とし込むための具体的な手法が不足している。また、競争を回避するという理想に過ぎない考え方には批判的であり、他の実践的なビジネス書と比較すると、実用性に乏しいと感じる。現場で働くビジネスパーソンにとっては、インスピレーションの一助としては機能するかもしれないが、それ以上の期待は持たない方が良いだろう。